特集記事

特集No.3「天童将棋駒」駒にまつわる物語。
製造工程
駒木地の木目の揃えから、漆の調合、盛り上げまで
すべてが気の抜けない仕事です
国の伝統的工芸品指定を受けている駒には、
書き駒・彫り駒・彫り埋め駒・盛り上げ駒の4種類がありますが、
ここでは伝統工芸士・桜井和男さんによる盛り上げ駒の作り方を紹介します。
① 木地の準備
駒木地の原料となるツゲの板材を御蔵(みくら)島から取り寄せ、何年か乾燥させたら、駒のサイズに合わせて四角形に木取りをします。その中から同じような木目模様の四角形を40枚選んだら、五角形の駒形に切りそろえます。
② 40駒分の字母紙(じぼし)を作る
薄紙に40駒分の字を書き写します。「今はゴム印や印刷が一般的ですが、私はひと駒ずつ書き写していくんです。これが『字母紙』作りという、とても大事な作業です」と桜井さん。
③ 字を彫る
字母紙ができたら一枚ずつ切って、駒木地に貼りつけます。そして駒を駒彫り台に固定し、印刀を使って一枚一枚文字を掘り込みます。
④「彫り埋め」作業をする
40駒をすべて彫ったら、砥の粉(とのこ)と生漆(きうるし)で錆漆(さびうるし)を調合し、彫った部分を錆漆で埋めます。漆は乾燥すると沈着するため、錆漆で彫りを埋めて乾かすという工程を、表面が平らになるまでくり返します。
⑤「研出し」と「瀬戸引き」
彫りが埋まり、完全に漆が乾いたら、4~6段階の研磨紙で研出(とぎだ)します。また、目の細い研磨紙で研出した後に、瀬戸物で表面を磨くことを「瀬戸引き」といいます。この段階で工程を終了するのが「彫り埋め駒」です。
⑥「盛り上げ」と「磨き」
蒔絵筆を使って、漆で字を浮き出るように盛り上げていきます。漆を立体的に、かつ均一に乗せるには、盛り上げ師の高度な技が必要となります。こうしてできる盛り上げ駒は、プロ棋士が対局で使う最高級品となります。
①字母紙を作っているの写真
工程② 鉛筆で字を写し、字母紙をつくります
②駒の次を彫る作業の写真
工程③ 駒に字母紙を貼り、字を彫ります
③彫埋め作業の写真
工程④ 錆漆による彫埋め作業には1ヶ月を要します
④漆仕上げ作業の写真
工程⑥ 漆で字を浮き出るように盛り上げます


作り手に聞く
天童将棋駒の伝統を未来へつなげる
3人の伝統工芸士たち
書き駒・彫り駒・盛り上げ駒の各分野において、
特に秀でたスペシャリストを紹介します。
書き師・伊藤太郎さん(太郎・仁寿)
大正14(1925)年生まれの伊藤太郎さんは、書き駒を専門とする唯一の書き師です。伊藤さんが、初めて書き駒づくりをしたのは小学4年生。当時、子どもたちは小遣い稼ぎで下級駒を書いていました。戦後、本格的に書き師に弟子入りしてからは、一日1200枚ほどの駒の裏表に字を書いていたといいます。その後、時代の変遷から彫り駒が主流となり、書き師の数が減少しても、伊藤さんは書き駒の道一筋に進んできました。「天童の伝統は書き駒ですから誇りを持って書いています。でも、本来の伝統である草書体を書く人は数名しかいなくなりました。それが残念ですね」。そう語る伊藤さんは、一時ほとんど書かれなくなった草書体を昭和50(1975)年代に復活させた名工で、平成9年には伝統工芸士の認定を受けています。
伊藤さんの写真
「書き駒は、下書きをせずに黒漆の筆で一気に書きますから、書き手の個性がはっきり出ます」と語る伊藤太郎さん。号は、草書に「太郎」、楷書に「仁寿」を使い分けています。

彫り師・国井孝さん(天竜)
機械彫りが主流の天童の「彫り駒」生産において、一貫して手彫りをしているのが国井孝さんです。しかも国井さんは、下書きをしないで直接彫る「すかし彫り」ができる稀少な職人。そんな国井さんの彫り歴は、中学生の時に始まります。「近所にいた彫り師の刃物で勝手に彫っていたんです。みつかると逃げたりして(笑)。それで慣れてしまったんですね」。中学を卒業すると同時に彫り師として独立。その後、技を高めるため、山形の高級駒の父といわれる名匠・国井香月の元で技術を習得しました。手作業による彫り仕事が減り始めてからは、機械彫りとの差別化を計るため、木地からこだわって駒を彫る高級駒づくりに転換。全国屈指の彫り師のひとりとして活躍しています。
国井さんの写真
彫り師としての類まれな技を持つ国井孝さんは、とても明るいお人柄で、平成14年には自叙伝『おれは天に昇る龍になる』を発行しました。平成9年伝統工芸士認定。

盛り上げ師・桜井和男さん(掬水)
分業体制による大衆駒が全盛だった天童において、「盛り上げ駒」に着眼し、研究を始めた職人がいました。そのひとりが桜井和男さんです。桜井さんが初めて盛り上げ駒を手がけたのは、社会人になって「書き駒」職人として駒づくりをしていた昭和48(1973)年でした。「天童でも、東京駒に負けない駒を作ろうと、兄弟子の村川秀峰さんと研究を始めたんです。でも、盛り上げ技術を教える人が天童にはいないわけですから、漆との格闘が何年も続きましたね」。昭和60(1985)年、数人の職人仲間と展示会を開催し、天童の高級駒を世に示しました。同年、桜井さんの駒はタイトル戦に初めて使用され、以後、全国に名を馳せる盛り上げ師として銘駒を作り続けています。
桜井さんの写真
現在、桜井和男さんのご長男・亮さんも「淘水(とうすい)」という号で盛り上げ駒を製作。平成16年には女流棋士の公式タイトル戦に使用されました。平成9年伝統工芸士認定(桜井和男氏)。

作品ギャラリー
木と漆と文字による
およそ3cm四方の芸術世界
表情豊かな木目の模様と、黒く輝く漆の艶、
そして美しい文字の形が融合する、小さな日本の芸術品。
将棋駒の魅力のひとつは、駒木地に現れる木目の表情にあります。その最たるものは、木の宝石と称される御蔵島産のツゲの木目で、最高級品の盛り上げ駒などに使用されています。また、もうひとつの魅力は、日本の伝統美といえる洗練された書体の数々で、その数は150ほどあるといわれています。そして、それらの文字を象る漆の艶と躍動感。3cm四方といえども、小さな駒には無限の芸術性が広がっています。




 

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