厳かにたたずむ古刹慈恩寺


家々の間の細くて急な坂道を登って慈恩寺へ。瑞宝山慈恩寺は祈願寺のため檀家は1軒もありません。長い歴史の中で、時の権力者たちに庇護され、また、権力者が変わるたびに争いや焼討ちにあい、再建されていくなかで、国家と人々の平穏な暮らしを願い、世の中を見守る存在となっていました。悠久の時の流れの中で、いったいどれほどの人達がそれぞれの思いを胸にこの坂道を登って行ったのでしょう。

取材日は寒河江市内の小学校3年生が訪れており、大江宗務長がわかりやすく解説。一般拝観者も説明を受けられます。
慈恩寺は奈良時代、天平18年(746年)、今から1,265年前に、インドの婆羅門僧正が聖武天皇の勅命により開基したといわれている古刹です。江戸時代には、徳川幕府の直轄となり、寺領2,800石余は東北随一でした。その証となるのが、本堂にある三つ葉葵です。天皇家の菊の紋章が厨子の左右に、そして、徳川家の葵の紋章が正面に配置されているところから、当時の権力者の力を伺い知ることができます。
境内には、本堂、山門、薬師堂、阿弥陀堂、三重塔などが厳かに建立しています。
現在の本堂は、元和4年(1618年)、393年前の江戸時代の初め、山形城主、最上義光公が再建。三重塔の建築も行われました。江戸末期までは、弥勒堂を中心として最上院・宝蔵院・華蔵院の三つの寺院とそれに付属する48坊※からなっていましたが、現在は、三つの寺院と17坊となっています。
(※坊:寺における寺務所や僧侶の住居のこと。)
重要文化財の本堂には、直径60cmの太い柱と40cmの柱が66本あります。これは、当時の日本は66ケ国あり、国家の安穏、万人の豊かな暮らしを願ったからです。
本堂は桃山時代の様式を残す重厚な茅葺き屋根で、平成16年に全面葺き替えされました。
慈恩寺という寺号は、法相宗(ほっそうしゅう)の祖慈恩大師から由来したもので あり、そもそも法相の寺院でした。平安後期には、天台宗の影響もあったようですが、 鎌倉時代に真言宗、室町時代に時宗も入り、多くの宗派が併存しました。以降は、真言 宗が主流でしたが、最上家のお家騒動による藩替えで徳川家が入ってきたのを発端に、一つの院が改宗しようとしました。これに対し他の院が反対したことで、一山で天台宗と真言宗を兼ねることとなり、長年にわたる抗争を続けてきました。終戦後は、宗派を統一し、慈恩宗本山慈恩寺となっています。しかし、今日でも、法会(ほうえ)などの行事は、奈良の興福寺、薬師寺、京都の清水寺と同じ法相宗の法式で行事を行っており、東北地方ではここ慈恩寺だけだそうです。

本堂に入ると天井には、六面の天女図と八方睨みの竜が描かれています。さらに、奥の間正面には、本尊前仏の弥勒菩薩、左に阿弥陀如来、持国天、右に聖観音と多聞天が安置され、その後ろの宮殿には、これまでの公開が6回のみという33体の秘仏が納められています。
薬師堂には、薬師如来と日光・月光菩薩。薬師如来は、延慶3年(1,310年)、鎌倉時代に京都でつくられ、日光・月光菩薩は、京都から訪れた大勢の仏師たちにより、ここ慈恩寺でつくられました。また、その背後には、護法神(ごほうしん)である十二神将が薬師三尊をお守りしています。
鎌倉時代の初期につくられた十二神将は、頭上に十二支がのっており、その躍動的な彫刻は第一級で、卯神将と巳神将はワシントンの彫刻展に出展されたこともある日本の傑作品です。薬師堂には、国重要文化財が十二体安置されています。
本堂と薬師堂は、秘仏以外は拝観でき、歴史や創作時期、特徴、時代背景などをわかりやすい説明で知ることができます。

毎年5月5日には、本堂前で、河北町の谷地八幡宮の神職林家による舞楽が奉奏されます。林家に伝わる一子相伝1,200年以上の伝承をもつ舞楽は、国重要無形民俗文化財に指定されています。貞観2年(860年)、大阪天王寺の林越前政照(はやしえちぜんまさてる)が慈覚大師に随徒して、山寺で奉納として舞ったのがはじまりとされています。時を経て舞楽は慈恩寺に移り、以来、慈恩寺では5月5日の一切経会(いっさいきょうえ)の時に、8番の舞楽を奉奏しています。

今年は、東日本大震災の影響で、打ち上げ花火など一部自粛されましたが、例年を上回る見学者を迎えて、震災で亡くなられた方々のご冥福と被災地の復興を祈願して厳かに行われました。

昨年、境内では、藤沢周平原作の映画「小川の辺」の撮影が行われました。主人公の東山紀之さん演じる戌井朔之助(いぬいさくのすけ)が本堂でお参りしているシーン、勝地涼さん演じる新蔵との食事風景、また夜の雨が降るシーンなどが撮影されました。「小川の辺」では、私たちが、どこかに忘れてきてしまった日本人の姿を山形県内の美しい風景の中で描かれています。重厚で厳かな慈恩寺を映画の中でもぜひご覧ください。
・6月18日(土)山形県先行公開
・7月2日(土)全国公開
映画には、吉村美栄子山形県知事もエキストラとして出演。
■2月第一日曜日 大般若会
■5月4日 濫觴会(らんじょうえ)
■5月5日 一切経会 舞楽奉奏 境内の稚児桜が開花
■9月第二日曜日 柴燈護摩会 曼珠沙華が満開の見頃
■12月大晦日 除夜の鐘
■お問合わせ・取材協力/慈恩宗本山慈恩寺寺務所 tel.0237-87-3993