漆野いんげん&甚五右ヱ門芋

先人から受け継ぎ、栽培され続けるやまがたの伝統野菜。古くからあるため、その食べ方は、漬け物や煮物などのお惣菜が多いだろうとイメージされませんか。今回は、「甘味」、「スイーツ」にも変身する伝統野菜を最上地域から2種類ご紹介します。

山形県北東部に位置する金山町漆野地区で、荒木タツ子さんは、漆野いんげんを生産しています。漆野いんげんは、サヤインゲンと同じように若いサヤを食べることもできますが、サヤごと乾燥させたものを水で戻し、そのまま煮て食べられるのが特徴です。煮るとサヤが透き通って、中の豆が見えます。

漆野いんげんは、昭和14年に村山地方から来た炭の検査官が荒木家に贈り、以来、荒木家のみで栽培されてきました。タツ子さんは、荒木家に嫁いできてからずっと種を守り、栽培を続けています。荒木家では何気なく食卓にあがり、荒木まめと呼ばれていたいんげんを、地域の宝である在来作物として意識するようになったのは、在来作物の種の保存などに取り組む山形大学農学部の江頭宏昌准教授と出会ってからとのこと。現在は、漆野いんげんに魅了され、たくさんの方に届けたいと願う金山町伝承野菜ファンクラブの方々が、荒木さんと一緒に栽培するようになりました。
栽培するうえで大変なところは、カビ対策です。漆野いんげんは、サヤが緑から白っぽく変わる頃に収穫します。この収穫までの間、いんげんの周りにある枯れ始めた葉などを除かないと、実がなっている状態でもサヤにカビがついてしまうそうです。また、収穫時期が集中すると、いんげんを乾燥させる場所もなくなってしまうため、種を蒔く時期を2週間ほど間隔を空け、3回に分けていると話します。翌年栽培するための採種は、サヤに入る豆の数が多い6粒か7粒入った姿形のいいものを保存します。
漆野いんげんの甘煮は、サヤごと乾燥した豆を、煮る前に一晩水に浸して戻します。そして、砂糖と塩で1時間くらいゆっくりコトコトと中火で煮込みますが、煮過ぎるとサヤが崩れてしまうので油断大敵とのこと。煮上がると、中の豆がきれいに透き通って見え、冷めるにしたがって味が落ち着いてくるそうです。嫁いでからおばあちゃんに習った調理法を受け継ぎながら、タツ子さん流にアレンジも加えています。甘煮の煮汁を寒天に利用するのは、タツ子さんの考案です。煮汁にも漆野いんげんの味や香りがしみ出し、甘煮とは違った楽しみ方ができます。「いろんな豆を煮てみたけど、さやごと食べられるのはこれだけ」というタツ子さん。タツ子さんがおばあちゃんから受け継いだように、次は、お嫁さんが漆野いんげんを栽培していくと話してくれたそうです。

金山町の北隣にある真室川町の大沢地区に、一子相伝の里芋、室町時代から400年以上受け継がれる甚五右ヱ門芋があります。甚五右ヱ門芋は、佐藤家の初代の名前で昔から佐藤家がつないできました。現在は、20代目の春樹さんが守っています。春樹さんは、「うちの家には、この芋とみそは絶やすなと言い伝えがあります。米が不作の時でも、この芋とみそがあれば保存もできるので、なんとか食いつないでいけるだろうという、昔の人の知恵だと思います」と話します。
甚五右ヱ門芋の特徴は、芋自体に土臭さがなく、柔らかくてとてもとろみが多いことです。「芋煮のような汁ものにすると、汁自体にとろみがついて、とろみの膜で全体が包まれている感じ、餅を食べているような感覚で芋を食べてもらえると思います。」と話します。また、美味しい食べ方を伺うと「『きぬかつぎ』っていうんですけど、とろみのカプセル状態になっていますので、柔らかい孫芋のところを皮付きのまま茹でて、柔らかく茹であがったら、皮をぷりっとむいて、お塩をつけて食べるのが、芋そのものを味わえて一番美味しい」と教えてくれました。
収穫時期は、10月初めから11月の中旬くらいまで。寒くなると痛んでしまうが、早く掘ってしまうと逆に芋が美味しくなくなってしまうとのことで、収穫にも気を使います。先祖代々から受け継いできた芋なので、栽培方法もできるだけ変えず農薬や化学肥料を一切使わないようにしています。また、この土地の気候・風土で育まれてきたものなので、同じ地区内で栽培を続け、室町時代からの味を守っていきたいそうです。
「甚五右ヱ門芋は、先祖の宝というか、私達に遺してくれた財産。僕たち家族だけじゃなく、地域の宝でもあると思うので、この芋を通して地域の方がつながり、在来野菜を介したコミュニティが生まれて、みんな仲良く地域が活性化していけばいいなあと思っています」と甚五ヱ門芋への思いを語ってくれました。

甚五右ヱ門芋をはじめ、最上地域にある伝統野菜を美味しいスイーツにするお店があります。真室川駅近くの「おかしの平和堂」3代目オーナーパティシエの阿部陽一さんは、甚五右ヱ門芋を洋菓子のタルトに変身させます。伝統野菜をお菓子にしようと思った理由は「もっと多くの方に伝統野菜を知ってもらいたい。洋菓子にすることで、伝統野菜を時期を問わず年間通して味わってもらえ、お子様から年配の方まで幅広く食べていただくことができるので、伝統野菜を知るきっかけになれば」とのこと。

タルト甚五右ヱ門が誕生したきっかけは、生産者の佐藤春樹さんから若い人達が食べたいと思うようなスイーツにできないかという提案だったそうです。
阿部さんは、甚五右ヱ門芋のクリーミーでなめらかな柔らかさを活かそうと、米粉を使った生地のタルトにしました。
タルトは、甚五右ヱ門芋を完全に芯がなくなるまで茹で、生クリーム、砂糖といっしょにクリーム状に練り上げます。茹でた芋をミキサーにかける時、ミキサーの容量に合わせた分量だとミキサーの羽根が止まってしまうほど、芋の粘りが強いそうです。出来あがったタルトは、トローっとした芋の粘りが残っていて、口の中でとろけるような美味しさが口に広がります。伝統野菜を使ったスイーツ、一度ご賞味ください。