矢萩政美

矢萩政美の仕事。
矢萩政美畳店 代表(山形市)

取材に答えていた穏やかな顔が、畳に向かった
瞬間引き締まる。無駄のない正確な動きと力強さが、
山形の畳刺しの技術をリードし、畳文化の伝統を伝える。
「畳の刺し方は誰とも違うんだ。
段取りも早さも仕上がりも」
紙一重の隙もない仕上がりこそ職人の技。


※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。

矢萩政美 技能者の模範として山形県から卓越技能者、山形市から褒賞の表彰を受けた矢萩さん。中学卒業後に弟子修業を4年、半年のお礼奉公の後、職人として働き、店を構えた。この職人時代、ほかの畳屋の仕事ぶりを真似、自分で研究と練習を積み重ね、自分のやり方を身に付けていったという。
段取り、畳を刺す時の体の置き方、スピード、どれもが独特の矢萩流。たとえば、部屋は厳密にいうと当然ながら少しゆがんでいる。つまり台形だったり、ひし形だったりする。これに畳をぴしっと納めるため、どこが直角でないかを調べる寸法取りが不可欠。今はレーザーを利用した計測器があるが、矢萩さんが使うのはコンパスと「三四五」と呼ばれる直角三角定規だけ。しかも正確で早い。
また、畳刺しも早く、他の職人に比べ一日一枚ほど多い。
「無駄な手、ヘタな手は絶対に使わない。針当てに金属を入れないのはご飯もそのまま、作業ごとに外す必要もないので、時間を無駄にしないため」という仕事への徹底ぶり。
ちなみに、「針当て」とは手の平にはめて使い「針抑え」「手皮」などとも言い、裁縫でいう指ぬきのようなもの。針を押す時に手の平をケガしないよう金属を入れるのが普通である。
矢萩さんの刺し方には、まだまだ隠し技がある。畳職人の技がはっきり分かる角出し(角が下がらずきっちりと作ること)、待ち針が効かない厚さの畳を手差しする技...どれも長年の経験と技術の研究を重ねたゆえのもの。
「紙一重で、思ったように隙間なく納まった時は、ホームランを打ったような満足感があるね。それはお客様の満足につながる」
自分の腕に自信があるから、同業者がお互いの首を絞めるだけの値段競争はしない。これもまた矢萩流である。