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更新日:2020年9月28日
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(平成28年1月15日掲載)
置賜(おきたま)地域を代表する郷土料理、冷(ひ)や汁(しる)。その名から汁物を想像するかもしれませんが、実はこの料理、汁物ではなく、出汁(だし)の旨みを存分に味わうことができる、具沢山のおひたしなのです。
米沢市は「上杉の城下町」として知られ、米沢藩上杉家ゆかりの史跡や文化が伝わっています。そして、山に囲まれ、冬の間は雪で覆われるこの地域には、雪国ならではの食材が多く残っています。正月や結婚式などのハレの日に食べられる冷や汁にも、古くから伝わる食材が使われます。
「冷や汁は野菜のおひたしで、四季折々の旬の野菜を使い、一年を通して食べられています」と教えてくださったのは、米沢市内の料亭「吉亭(よしてい)」の女将吉澤和美さん。「冬の定番の食材は『雪菜(ゆきな)』。『雪菜』は雪が降る前に一度収穫してから、稲わらと土で覆い、降り積もった雪の中でとう(花の茎)を成長させる、珍しい野菜です。また、小野川温泉のお湯を利用して冬の間だけ栽培される『小野川豆もやし』も欠かせません。どちらも米沢に古くから伝わる伝統野菜で、昔の人達は大雪が降る冬でも新鮮な野菜が食べられるようにと工夫されたのでしょうね。先人の知恵は本当に素晴らしいです」。
雪菜(左)と小野川豆もやし(右)
茶豆をつぶして乾燥させた打豆
冷や汁には、野菜のほかにも、凍(し)みこんや打豆(うちまめ)などの長期保存が可能な食材が使われます。「凍みこんは、こんにゃくを凍らせたもので、水で戻してすぐに使うことができます。打豆を入れるようになったのは最近ですが、長時間水に浸したり、煮込んだりする手間がかからないので、即調理できてとても便利な食材です」。
こんにゃくを凍らせ、その後乾燥させた凍みこん
「冷や汁のベースになる出汁には、干し椎茸や干し貝柱などの乾物を使います。干した食材は栄養価が高く、山のものと海のものを合わせることで旨みも増し、栄養もしっかり取れます。干し貝柱で出汁を取るなんてとても贅沢な料理ですね」と吉澤さん。
干し椎茸
干し貝柱
「冷や汁はもともと米沢藩の陣中料理で、合戦の出陣式で配下の武将に振る舞われたと言われています。何百年も前から、食材を備蓄するという考えを持ち、それらを組み合わせて旨みを引き出していたということに感動します。今のように栄養素や旨み成分などということは知らなかったと思いますが、先人たちは冷や汁が栄養的に優れていると分かって召し上がっていたかのようです」。
古くは贅沢な食べ物として庶民が口にすることはなかった冷や汁は、いつしか家庭料理として食べ継がれるようになりました。各家庭で味付けや食材の組み合わせが異なり、バリエーションも豊富です。今回は「雪菜」や「小野川豆もやし」を使った基本的なレシピをご紹介しますが、季節に応じて、キャベツや菜の花、菊などの旬の野菜で作ってみてください。また、手に入りにくい凍みこんは、普通のこんにゃくや凍み豆腐で代用することも可能です。
冷や汁の材料
材料:4人分
雪菜100g、小野川豆もやし50g、ほうれん草150g、干し椎茸2枚、干し貝柱 大1個、凍みこん2枚、打豆20g
浸し汁(出汁<干し椎茸や干し貝柱の戻し汁など>1.5カップ<300cc>、醤油大さじ2、みりん大さじ3)
横浜から米沢へ嫁いできた吉澤さんが、初めて冷や汁を食べたのはご自身のお祝いの席だったと言います。「その時のお膳は義父が選んでくれたもので、だるまとヤジロベエが描かれていたのを今でも覚えています。冷や汁がとても美味しかったですね。小鉢でいただく料理なのですが、お替わりもできました。質素を奨励する米沢の地では、お替わりができるのはとても珍しいことだと後で知りました。冷や汁がご馳走であることを象徴していると感じたのは、義妹達が驚くほど大事に食べていたということで、とても印象的でしたね」。
「何と言っても、冷や汁はお出汁が美味しいので、みなさんにも一度食べていただきたい」と吉澤さんが言うように、様々な食感の食材と噛み締めるたびに溢れだす優しい出汁の味わいが絶品です。ぜひ、置賜地域自慢の逸品をご賞味ください。
「吉亭」女将の吉澤和美さん
米沢牛・山懐料理 吉亭