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更新日:2020年9月28日
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山形の秋の風物詩といえば、芋煮会。県内各地の河川敷では、秋になると芋煮鍋を囲むたくさんのグループが見られます。同じ山形県でも、内陸地域と日本海側に位置する庄内地域とでは食文化に違いがあり、内陸の芋煮は主に牛肉で醤油味、庄内の芋煮は豚肉で味噌味と材料も味付けも異なります。
まだ暑さの残る9月の日曜日、山形市の馬見ケ崎河川敷では「日本一の芋煮会フェスティバル」が開催され、山形の伝統鋳物で造られた6メートルの大鍋でダイナミックに芋煮が作られます。毎年、ここから山形の芋煮シーズンが始まります。
庄内の芋煮鍋。山形の郷土料理であるが、地域によって材料も味付けも異なる。
豚肉、厚揚げは基本で、ネギとこんにゃくは内陸と同じ。ほかは、にんじん、きのこなど。酒粕の濃厚なコクと味噌の相性が絶品。
芋煮会の由来は、1600年代半ば頃の江戸時代に遡ります。当時、最上川舟運で酒田からの終点だったのが、山形市の西北に位置する中山町長崎付近でした。当時は荷物が着いたことを知らせるすべもなく、引き取りの人が来るまでに船頭たちが何日も待たされたといいます。船着場の近くには里芋の名産地があり、船頭たちは退屈しのぎに近くの老松に鍋をかけて、里芋と積み荷の棒タラなどを煮て食べたことが、芋煮のルーツといわれています。
日本の食肉文化については諸説あるようですが、日本の農耕、稲作に関係しているようです。国内でも、南や西の地域では、土を耕すのに牛を使い、牛が身近にありました。牛が年を取って使えなくなると食用にしたことで、牛肉文化が根付いていきました。一方、北国では、雪や寒い時期が長いため、農耕においてはゆったりとした牛よりもスピードのある馬が選ばれたといいます。ただ、多くの農家では、年間を通じて馬を飼育できる余裕がなかったために、春先の耕耘(こううん)が終わったら馬を売ってしまうのが普通であり、肉となると、飼い易い豚や鶏を食べるのが一般的でした。
このような状況ではありましたが、本県の内陸地域(村山、置賜)では、明治時代から、牛肉を食べる文化が根付き始めました。
上杉鷹山が開校した興譲館(現、県立米沢興譲館高等学校)で、明治時代のはじめに教鞭を執った英国人のチャールズ・ヘンリー・ダグラス氏が、横浜の居留地に帰る際に米沢の牛を持ち帰り、仲間達に振舞ったところ大好評を得たそうで、それが米沢牛ブランドのはじまりといわれています。
牛肉を食べる文化が広がった内陸地域(村山、置賜)では、やがて芋煮に牛肉を使うようになったようです。
一方、庄内は養豚が盛んな地域であり、「庄内豚」ブランドとして味と品質で高い評価を得ております。
庄内地域では明治39年に酒田市黒森地区に養豚が初めて導入されました。戦後、農家等で数頭飼いが行われてきましたが、庄内豚産地のきっかけとなったのは、昭和45年の減反政策で、当時のJA庄内経済連が養豚に力を入れたことにあります。海外から種豚を導入し、多くの篤農家と共に豚の育種を行いました。そのことで優良な種豚が作出(さくしゅつ)されたことから養豚が盛んになって庄内の豚の生産が伸びるとともに、食肉加工業も盛んになり豚肉を食肉とする基盤が出来上がりました。庄内地域にある県の養豚試験場では、地元密着の研究を行っており、農家をはじめ官民一体で養豚による地域振興が図られています。
このように、同じ県内でも、地域によって芋煮で使用する肉に特徴があるのは、それぞれの風土や歴史を背景に食文化が形成されたことによります。
農々家の高梨美代子さん。オーナーシェフという肩書きより優しいお母さんという印象。柔らかい庄内弁ととびきりの笑顔が料理をますます美味しくする。
庄内町の農家レストラン「農々家(ののか)」のオーナーシェフ高梨美代子さんに芋煮鍋を作っていただきました。農々家は、「庄内の食文化、農家の食事を伝えていきたい」との高梨さんの想いから、今年(平成25年)4月にオープンしました。
今回は里芋で作っていただきましたが、庄内地域の芋煮会ではずいき芋を入れる場合もあるのだそうです。ずいき芋はからどり芋とも呼ばれ、庄内の在来作物です。ずいき芋の茎は保存食としても食べられており、お正月の雑煮や納豆汁にも入れます。昔は、田んぼの一部に植えていたそうで、稲刈りが終わったら芋を掘って食べたとのことです。
店舗の隣にはずいき芋の畑が広がる。天気がいい日は鳥海山が一望できる。
看板に描かれたイラストがずいき芋。
肉はもちろん豚肉を使い、ほかの材料としては、厚揚げ(※)、にんじん、こんにゃく、椎茸などのきのこ類にネギが入ります。
※注 庄内では厚揚げのことを油揚げといいます。また、一般にいう油揚げを庄内では薄あげといいます。
作り方を紹介しますと、里芋(ずいき芋)は、一度茹でこぼし、泡がでた湯を捨てます。だし汁は煮干しで、人参、こんにゃく、椎茸を入れます。芋が少し柔らかくなったら、豚肉を入れて酒粕を入れます。アクを取り、ネギと厚揚げを入れて、最後に味噌を入れて完成です。
豚肉と味噌だけではなく、厚揚げが入ること、だし汁が煮干しであること、そして、酒粕の濃厚な味わいが特徴です。
高梨さんが子供の頃の昭和40年代は、芋煮といえば、厚揚げとこんにゃくが主で、ほかは農家で採れる野菜を入れ、豚肉は稲刈り後に行われるふるまいの席など、特別の日にのみ入るものだったそうです。豚や鶏は自宅で飼っていて、特に豚は米ぬかや野菜の残材などを与え、食用や現金収入用に2頭から3頭は飼っていたといいます。庄内地域で養豚業が盛んになっていった背景の一つとして、地元農家で豚は身近な家畜だったこともあるようです。
また、米どころ庄内は、酒蔵が多いところでもあり、高梨さんの住む庄内町廿六木(とどろき)には、かつては140軒ほどの集落のうち3軒もの造り酒屋があったそうです。現在は新興住宅も増えましたが、庄内町には今も2軒の酒蔵があります。「昭和45年あたりは、なかなか一升のお酒が買えない時代だったんで、料理を酒に使うという習慣はなくて、うまみを出すために酒粕を使ったんだと思います。酒粕はふんだんにありましたから」と高梨さんは言います。
庄内の郷土料理である春の孟宗汁なども酒粕と味噌仕立てになっていますから、酒粕のコクと味噌は、代々受け継がれてきたおふくろの味なのでしょう。
高梨さんはお母さんから「地場で採れる季節のものを使いなさい。本当の美味しさは自分の畑で採れる旬の野菜が一番」といわれたそうです。高梨さんは、料理を食べたお客様から「野菜本来の優しい味がする」と喜んでもらえるのが一番嬉しいそうです。
「農々家」では、旬の野菜をふんだんに使った季節感溢れる手作り料理をいただけますが、完全予約制になっています。庄内の芋煮を味わいたいという方も事前に電話でご確認ください。
完全予約制。ランチは前日でも可。夜は一組限定。