更新日:2020年9月28日

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だだちゃ豆

いま、山形から・・・ やまがた伝統野菜 だだちゃ豆(JPG:158KB)

山形県には、150種類以上もあるといわれる伝統野菜。今回は、庄内地方の鶴岡市鶴岡地域で栽培されている枝豆、「だだちゃ豆」の魅力をご紹介します。

殿様のだだちゃ豆

昔、むかし、城下町鶴岡が庄内藩と呼ばれていた頃、たいそう枝豆の好きなお殿様がいました。毎日、毎日、枝豆を持ち寄らせては「今日はどこの“だだちゃ”の枝豆か?」と尋ねたそうです。

だだちゃ豆(JPG:90KB)

だだちゃ豆の収穫は、品質を保つためには気温が低いうちに収穫を終わらせる必要があることから、早朝というより、深夜に近い時間に行われる。

「だだちゃ」とは庄内地方の方言で「お父さん」のことを言います。枝豆好きの殿様の逸話から、いつしかこの地区で採れる枝豆は「だだちゃ豆」と呼ばれるようになったそうです。

殿様に限らず、鶴岡の人は毎日だだちゃ豆をどんぶり一つ平らげるとか…。

わがままな豆、だだちゃ豆

だだちゃ豆の美味しさの秘密、栽培のご苦労話などについて、生産者であるJA鶴岡だだちゃ豆専門部の副専門部長 木村慎治さんに伺いました。

だだちゃ豆と通常の枝豆の違いについて伺うと、即答で一言(だだちゃ豆は)「うめっ!(旨い)」という答えが返ってきました。とにかくうまいと自信を持って言います。

殿様の寵愛を一身に受けただだちゃ豆ですが、見た目は、サヤの表面が茶色い毛で覆われ、くびれも深いため、決して器量良しというわけではありません。でも、茹であがる頃のなんともいえない独特な香り、そして、口に含んだとたんに広がる甘味と、噛むほど感じるコクが絶妙で、食べ始めると止まらなくなります。どんぶり一つ、ざる一つであっても、全部食べてしまうというのも納得です。

木村慎治さん(JPG:82KB)

JA鶴岡だだちゃ豆専門部 副専門部長
木村慎治さん

木村さんの豆畑(JPG:125KB)

木村さんの畑。毎日、ただちゃ豆に話しかけるという。

また、栽培するうえでのご苦労について伺うと「豆が、わがままだなやー」と柔らかな庄内弁で悩みを話してくれました。「ちょっと暑くてもやんだ、ちょっと寒くてもやんだ(少し暑くてもいやだ、少し寒くてもいやだ)と言うし、ちょっと肥料を多くすると伸びすぎるし、水もほどほどでないとすぐ根腐れしてしまう」のだそうです。最初の種まきのときから収穫まで、それぞれの作業ごとにご苦労があり、木村さんは毎日畑に行って、だだちゃ豆の顔を見ては「花、咲いだのー、豆のサヤおっきぐなったのー」と、成長に合わせて愛情を込め声をかけているのだそうです。

木村さんの畑からは、晴れた日、鳥海山と月山の眺めが素晴らしいそうで、雄大な庄内平野の中で、だだちゃ豆は愛情を込めて育てられているのです。

守り継がれてきた種、生産者の想い

だだちゃ豆は、鶴岡市鶴岡地域で、それぞれの農家が自分たちの畑で育て、食べるために、江戸時代から大切に種を守って育てられてきました。

現在は、だだちゃ豆の品質を守るために、「JA鶴岡だだちゃ豆専門部」300人弱の会員の皆さんが大切に育てており、専門部ではマニュアルを作成して栽培しています。また、だだちゃ豆の収穫が終わり、稲刈りも終わって、生産者の農作業が一段落する頃、専門部ではだだちゃ豆の畑の土壌分析を行い、その結果をもとにして次年度に向けた指導を畑ごとに行っています。

肥料は有機質のものを中心に使用して土づくりを行い、生育過程での肥料も有機質にこだわり、おいしさと安全に努めています。

収穫時期は、7月下旬から9月中旬まで。木村さんは早朝の3時から収穫をしています。畑によっては、機械でなく、手作業での収穫になるところもあり、そこでは午前2時から始めるそうです。早朝というより深夜に収穫された豆は、サヤの温度が上がらないうちに脱サヤして洗浄し、出荷されます。気温が上がると品質の低下が早くなるため、収穫作業は朝6時頃までに完了させます。高品質でおいしいだだちゃ豆を届けるために、生産者の皆さんは大変な努力をしながら栽培しているのです。

やさいの荘の家庭料理 菜(な)ぁ

小野寺美佐子さん(JPG:66KB)

やさいの荘の家庭料理 菜ぁ 女将
小野寺美佐子さん

築130年の古民家の農家民宿、食事処として、オープンして9年目になる「農家の宿 母家 やさいの荘の家庭料理 菜(な)ぁ」の女将、小野寺美佐子さん。「菜ぁ」の主役は、小野寺さんの農園で採れるおいしい旬の野菜です。

オープンのきっかけは、“普通”の料理を食べて欲しいとの想いからだそうで、「普通の家庭料理が段々と失われてきている中で、普通が一番だということをお伝えしたくて、大事にしてもらいたくて」と小野寺さん。

野菜は鮮度がとても大事であるため、自家栽培の野菜を中心に提供しています。

今回、だだちゃ豆を使った料理を作っていただきました。

一品目は、だだちゃ豆ごはん。いろいろな作り方がありますが、今回は、だだちゃ豆のゆで汁をさらしで濾し、それに酒、昆布、塩、醤油を加えてごはんを炊き、後から茹でた豆を混ぜ込んで風味豊かに仕上げたものです。

二品目は、だだちゃ豆のお味噌汁。県民の食生活を紹介するテレビ番組を観て、昔は鶴岡ではみそ汁にして食べていたことを思い出し、提供するようになったとのこと。食べた人の多くは、カニ汁のような味と言うそうで、とてもいい香りが漂います。

三品目は、がんも。だだちゃ豆に限らず、季節の野菜で作っています。今回は、ひき肉とだだちゃ豆を混ぜ込んで香り豊かに揚げたもので、ふんわりとした食感です。

小野寺さんは、基本的な料理を大事に伝えていきたいと言います。最近は、イタリアンやフレンチ、中華と、いろいろな料理が食卓に並ぶことが多くなっていますが、小野寺さんは「その食べ物がどうしてこの地で食べられているかを今一度見直していきたい」、また、「トマトやきゅうりの夏野菜は体を冷やす役割があり、スイカは水分を摂るのに優れているなど、旬の野菜は体が求めているものなのです」と、地元で育てられてきた野菜を地元で食べられてきた食べ方を基本として、昔ながらの家庭の味を守り伝えています。

だだちゃ豆ごはん(JPG:63KB)

だだちゃ豆ごはん

だだちゃ豆のみそ汁(JPG:88KB)

だだちゃ豆のみそ汁

だだちゃ豆のがんも(JPG:72KB)

だだちゃ豆のがんも

「だだちゃ豆はとても優秀な野菜。収穫してすぐ茹でて、4、5分で食べられるから」と小野寺さん。

木村さんも小野寺さんもだだちゃ豆の美味しい食べ方は、「塩茹で」が一番と断言します。ポイントは茹ですぎないこと。好みにもよりますが、余熱を考えて3分という木村さん。一方、小野寺さんは、4分前後、サヤが割れ始めると、そこからは自分の好みで秒単位の世界だと言います。茹で方ひとつにも、それぞれのこだわりがあるようです。

暦の上では立秋を過ぎましたが、まだまだ夏真っ盛り。暑い夏には、よく冷えたビールにだだちゃ豆が最高で、これぞ至福の時です。

だだちゃ豆には、しじみなどに含まれるオルニチンが多く含まれています。しじみは100g中に約10~15mg含まれているのに対し、だだちゃ豆は100g中に約20~40mg含まれています。オルニチンは、細胞の新陳代謝を向上させ、美肌効果があるといわれています。また、肝臓の機能が高まって疲労回復やお酒の飲み過ぎによる二日酔いを予防してくれるそうです。子どもから大人まで美味しく食べられ、健康にも良いだだちゃ豆です。大人の方は、食べ過ぎより、飲み過ぎにご注意ください。

農家の宿 母家 やさいの荘の家庭料理 菜ぁ 外観(JPG:85KB)

農家の宿 母家
やさいの荘の家庭料理 菜ぁ

取材協力