技術の伝承:丸ト建設株式会社/井上正市・佐久間達也

〒992-0771 西置賜郡白鷹町大字鮎貝54 ☎ 0238-85-2515

井上正市
いいところを見つけて上手に生かす。人も木も使い方は同じだ。
井上正市
技能の匠 認定番号085
佐久間達也
ほめて伸ばすことも棟梁の「技」。しっかりと伝えていきたい。
佐久間達也
技能の匠 認定番号089

夢をかなえる環境づくりも、
職人に課せられた使命でもある。

井上さんは、生まれも育ちも山形県白鷹町だ。15歳の時から夜間の職業訓練校に通いながら大工の父のもとで修業を重ねてきた苦労人である。19歳と20歳の時に技能五輪の全国大会に出場し銀メダルと金メダルを受賞し世界大会に出場した。丸ト建設の仕事を請け負っていた関係で、30歳の時に社員として入社。以来、30数年、設計から施工まで手掛け、現在は取締役統括部長を務める。佐久間さんは、そんな世界大会出場者である井上さんに憧れて、大学校を卒業後に丸ト建設の門を叩いた。「不景気の時代で、人を雇える状態でなかったのですが、彼の才能は捨てがたかった」と井上さんは述懐する。以来10年、その才能は井上さんのもとで着実に育まれてきた。「佐久間くんは平面図を見て瞬時に立体図が想像できる才能がすごい」と井上さん。一方、佐久間さんは「井上さんはなんでも立体的に図解してくれるのでとても分かりやすい」。お互いを気づかう関係も育まれている。両者には共通点がある。「宮大工になりたかった」。夢が果たせなかった悔しさもお互いに知っている。だからこそ、佐久間さんが技能五輪に出場したい、と言ってきた時、井上さんは全力でサポートした。「私の親父が、仕事がありながらも自由に練習ができる環境をつくってくれたおかげで世界大会に行けた。佐久間くんにもそんな環境を与えたかった」と井上さん。その甲斐あって、佐久間さんは全国大会で入賞を果たした。

木にふれるのが好きだから
大工の仕事が楽しく続けられる。

佐久間さんは、井上さんに怒られた記憶が無い、と言う。「ほめて育てるのがうまいんです」。井上さんには忘れられない先輩の言葉がある。「家を建てる際、上手い大工は良い木を残し、下手な大工は悪い木を残す」と指導された。例え悪い木でも使えるところは必ずある。それを見つけて最初に使うことで、後で悪い木ばかりが残って困ることが無いようにするのが大工の腕だ、ということである。そして「人を育てる時も同じです」と言う。「人にはいいところが必ずある。叱らずにそれを見つけて生かせば、自ずといいものが出来ます」。若い職人を束ねる棟梁となった佐久間さんは、その流儀を継承したいと思っているが、なかなかうまくはいかない。そこで「井上さん、いつまでも現役でいて、困ったときは相談にのって下さいね」と頭を下げる。そんな2人にはもう一つの共通点がある。木が大好きで「木とふれあっている時がとても楽しい」とのこと。佐久間さんは井上さんが昔そうしたように、忙しい仕事の合間に残り木を使って玩具をつくり、家を建てた家庭にプレゼントしている。木が好きだからできるのだろう。60歳を超えた井上さんには叶えたい夢がある。地元・白鷹町の木をふんだんに使った建物を自分達の手で造り上げることだ。「そうすることで、周囲に伝統の技を使う職人が少しでも増えてくれたらうれしい」と話す。そして、「私には後継ぎがいないので、引退したら道具はみんな佐久間くんにあげるつもりだ」と。その話を聞いて佐久間さんがほほ笑んだ。道具とともに夢も継承されていく。