匠の仕事:秋山工務店:秋山篤司(A邸/鶴岡市)

秋山 篤司
「地域への思い」を継承しながら、
新しい住まいづくりに挑戦。
秋山 篤司 熟練の匠 認定番号058

秋山工務店
〒997-0311 鶴岡市黒川字椿出502
☎ 0235-57-2207


※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。

秋山篤司さんは、祖父、父と続く3代目の棟梁である。18歳で首都圏の建設会社に勤め、22歳の時に地元・黒川地区に戻り、父のもとに弟子入りをした。実はこの時、父は「大工は厳しい世界、生半可では務まらない」と反対した。それだけに、親方としての父の指導は厳しかった。仕事に取り組む姿勢がなってない、と言われ続けた。少しでも気を抜くと「熱意が見えない」と叱責され、鉛筆1本忘れただけで「帰れ」と怒鳴られた。篤司さんにとっては、父が言わんとしたことの答えを探し続ける毎日であった。技術的なことはひたすら他の職人の仕事を見て覚えた。ある日、「俺1人じゃ大変なので手伝え」と父が声をかけてきた。墨付けをしろ、というのである。その日から、仕事を任されるようになった。数年後、父は第一線から身を引き、篤司さんが秋山工務店の代表となった。今、篤司さんは、住宅の温熱環境に力を入れている。気候が厳しいこの地域で暮らす人々が、1年中ストレスを感じず、より快適に過ごせる家づくりに挑戦している。それは、地域の人とのつながりを大切にしてきた祖父、父が、家づくりで最も大切にしてきた思いの結実でもある。「地域で暮らす人の身になって、全力を尽くす」。
住宅建築の方法は変わっていくが、地域への思いは変わらない。まさに、そのことこそが父が言わんとしていた答えでもあった。

〈取材協力/資料提供〉設計・施工 秋山工務店

匠の手がけた作品

匠の手がけた作品

厳しい気候の中でも、快適に暮らしてほしい。
そんな思いを、知恵や技術を駆使して形に。

夏は蒸し暑く、冬は寒風吹きすさぶ、この地域特有の厳しい気候の中で、いかに冷暖房費を抑えながら快適に過ごすことができるか。A邸を建てるにあたって篤司さんが最も重視した点であり、そのための断熱仕様を徹底的に研究したという。しかも、断熱性や気密性の高い住宅に見られる閉鎖性を排除し、開放感の創出に工夫を凝らした。その工夫はリビングに現れる。天井を排し、手刻みの梁を現した空間構成は美しく、開放的で、そこで寛ぐ人の心をのびやかにしてくれる。屋根部分に配した開閉式の窓は、高温多湿な夏をさわやかに過ごすための風の通り道だ。長めにとった軒は、夏は暑い光を遮り、冬は暖かな光をたっぷり採り入れてくれる。先人の知恵や工夫を随所に活かした、自然との調和を大切にした住まいである。大型収納として和室の上にロフトを設け、太い床組をそのまま和室の天井として使用。伝統の趣が漂う風格ある和の空間が生まれた。家事のすべてがワンフロアで済む平屋造り。さらに家事動線を短くする効率的なプランニングで、年配のAさん夫妻の体への負担を軽くしている。寝室の北側に大きな開口部を設けたのは、外に広がる昔からの風景を眺めて暮らしたい、というAさんの意向を大切にした結果だ。「地域で暮らす人の身になって、全力を尽くす」。そんな篤司さんの住まいづくりの信条がそのまま形になった一邸である。

匠の手がけた作品 匠の手がけた作品

施主の声

新しい家は、寒さが厳しい冬も、少ない暖房で部屋全体を暖めてくれるので、とても心地よく過ごすことができます。寝るときに暖房を止めても朝まで暖かいので、夜中のトイレや早い朝の起床がラクですね。地元・鶴岡産の木材を使い、この地区の気候風土や生活習慣まで知り尽くした職人さんに造ってもらった家は、なんとなく体にしっくりとなじむ感じがして、とても安らぎます。