原田正志

左官

原田正志の仕事。
原田左官工業所(山形市)

"練れて半分、塗れて半分"
左官の奥の深さに魅了され、
親方に学び、感覚を磨く日々
昔ながらにこだわる5代目


※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。

原田正志 代々左官業を営む家に生まれた原田さんだが、父親から家業を継ぐように言われたことは一度もないという。子どもの頃、父親に連れられて現場に行き、土遊びをしているつもりが、それとは気づかずに土踏みの手伝いをしていたこともあった。そんな環境下で育ったことが少なからず原田さんの職業観に影響を与えたようで、選んだ道は一級建築士。
大学卒業後はしばらく設計事務所で働いていたものの、設計の仕事をするうちに左官の奥深さに魅力を感じるようになり、25歳の頃に家業を継ぐことを決意し、5代目を目指すことになった。その後、父親である親方や先輩職人のもとで修業を積み、さらに、塗り壁伝統の息づく京都で4年間、修業の機会を得た。社寺、数寄屋造り、茶室などの建築や修復に携わり、経験を深めることができた。

左官業は感覚、塩梅がすべて
親方から教えてもらえるものではなく
ひたすら見て聞いて盗んで経験を積む


昔ながらの自然素材、伝統工法にこだわる原田左官工業所では、何よりも感覚を大切にしている。土、砂、ワラ(土壁の材料)、石灰、海藻糊、麻(漆喰の材料)などの選定も配合も感覚に負うところが大きいからだ。塗る場所の条件や仕上がりのイメージに合わせて微妙に塩梅を加減して材料を配合する、塗り圧を決めるなど。それらは、言葉にして教えられるのではないし、本を読んで会得できるものでもない。親方や先輩職人の仕事ぶりから盗み、感じ、ひたすら経験を積み重ねることでしか感覚は磨かれない。

さらに、左官業の奥深さを物語るものが"土探し"。色粉を使用しない自然の色土を探して各地をめぐることもある。私たちがイメージする土壁は黄土色が一般的だが、探せば実にさまざまな色の土に出合うことができるのだ。仕事熱心な原田さんは、オフで出かけた外出先でもついつい土の色に目がいってしまうという。

土壁を手がけてきた職人さんたちが
現役のうちにその技を引き継ぎたいし、
新しいことにも挑戦したい。


最近は、塗り壁にも多くの既製品があり、レシピのように配合が指定され、仕上がりのイメージもカタログで確認できる便利な時代。しかし、自然素材の素晴らしさを知る原田さんは、伝統工法を途絶えさせてはいけないと考えている。だから、昔ながらの左官工法を熟知した60代・70代の職人たちが現役でがんばっている今のうちに、自分たち世代が受け継ぎ、次世代へ引き継ぐべきと。そして、確かな知識と技術力を身に付けた上で、現代建築に映えるオリジナルのデザイン壁や漆喰彫刻にもどんどんチャレンジしたいという革新派でもある。