匠の仕事:白幡建築事務所(S邸/庄内町)

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1ミリの誤差も無く木を組むために、
目を、腕を、勘を磨いてきた。
白幡千尋 技能の匠 認定番号008

白幡建築事務所
〒997-0843 鶴岡市岡山字六供31-5
☎ 0235-24-1128


※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。

「父の仕事を見て、とてもマネできないと思った」。高校卒業時、大工職人の父の存在が遠く感じていたという白幡千尋さん。しかし、1年後には父の門を叩いていた。「中学生の頃、古いわが家を新築に建て替えた父の腕に感動した」ことを思い出したからだ。掃除とのみ研ぎの日々が続き、現場に出たのが3年後。しかし、父が得意とする伝統の手刻みによる継手づくりができない。古家の解体現場で継手をばらばらにし、先人の技を見つめた。上端、下端の形や木の向きを見きわめながら、刻み続け、目を、腕を、勘を磨いた。
7年後、一軒の家を任された。墨付けをし、手組みで建てた。手組みは1㍉の狂いも許されない。狂えば家が傾く。緊張の連続で、完成しても感動は無く、ただ、間違いなく引き渡しができて、ほっとしたという。それは経験を重ねた今も変わらない。
白幡建築事務所の家づくりは技と木を駆使した在来工法だが、断熱材は構造計算された複合断熱パネルを組み込む。反りの多い無垢材との組み合わせには高い技術が要求される。合わなければ全てやり直しだ。父の正敏さんは「千尋はそれができる。本物の技術を身につけつつある」と目を細める。父にまた一歩近づいた。

白幡千尋

〈取材協力/資料提供〉設計・施工 白幡建築事務所

匠の手がけた作品

白幡千尋

木と技がおりなす美しさ。
伝統と先進が融合した心地よさ。

木の性質を見きわめながら、墨付け、切組を行い、組み立てていく。そして、木造住宅の持つ良さをさらに引き立たせるために、先進のシステムを融合させる。そんな千尋さんの住まいづくりをS邸でみることができた。玄関に足を踏み入れると、スギの格天井とケヤキの框、廊下の1枚板を組み込んだ腰板に目を奪われる。板を重ねたイナゴ天井の立体感が空間に趣をもたらしている。和室は、現地まで足を運んで手に入れた銘木を惜しげもなく使用。品格のある目透し天井、趣向を凝らした床の間、風情のある書院など、それは鍛え上げられた腕と感性が調和した「作品」だ。欄間は以前の家のものを天井高に合わせてはめ込んだ。伝統技術を知り尽くした者だからできた設えである。
また、柔軟な発想による空間づくりも見逃せない。広々としたリビングや若夫婦のための2階は、おしゃれな「洋」でコーディネイトされている。上りやすい広い階段幅など、技に溺れることなく、使う人の身になったつくりは、「生真面目」と言われる千尋さんの性格の表れであろう。太陽熱発電システムを導入し、複合断熱パネルを採用しながら効率的な暖房配置をプランニング。さらに、引き戸に隙間が生じないよう柱に戸じゃくり(溝)を施すなど、伝統の知恵をも随所に活かしながら、少ない光熱費で家中どこにいても暖かい空間づくりを実現している。木が大好きな父・正敏さんの背中を見て育った千尋さんが、木の可能性をとことん追求して築き上げた住まいでもある。

白幡千尋

施主の声

千尋さんはとにかく真面目で、建設関係にたずさわっている私の息子が「仕事がきちっとしている」と感心していました。良い職人さんを選んだと私も誇りに思います。私たち夫婦は和風、息子夫婦は洋風の部屋を望みましたが、どちらも手仕事で細やかな部分も手を抜かずにきっちりと仕上げているのには驚きました。いつまでも飽きのこない家だと思います。木をふんだんに使い、確かな技術で仕上げた家は、部屋を全部開放していても、いつもやわらかで心地よい暖かさに包まれて快適ですね。