矢作伸寿

矢作伸寿の仕事。
畳屋 清兵衛 三代目(尾花沢市)

20年以上、同じ時を過ごしてきた畳職人の道具「手がき」。
使い込むことで柄尻が痩せ、しっくりと手に馴染んでいる。
我が戦友ともいうべき貫録を放つ手がきの感触を確かめながら、
矢作伸寿さんは、噛みしめるようにゆっくりと
これまで歩んできた道のりに想いを巡らす――


※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。

矢作伸寿 憧れの父を目標に畳職人の道へ
そこで出会った仲間は一生の宝に


物心ついた頃から畳職人である父・清次郎さんの手技に憧憬の念を抱いてきた。父の背中を追い、いつの日か越えてみせる。そんな熱き想いを胸に、高校卒業後は埼玉県畳高等職業訓練校で3年間の修業時代を過ごす。
「今でも訓練校の仲間たちとSNSでつながっているんですよ」と矢作さんは笑顔で語る。
かつて苦楽を共にし、同じ道を究めた仲間との全国ネットワーク。その絆は、いつまでも決して色褪せることはない。道に迷い、心折れそうになった時、前に進むための勇気を与えてくれる大切な宝物のひとつなのだと矢作さんは力を込める。


経験を重ねるほどに思い知らされる
熟練職人である父のものづくりへの情熱


修業を終え、尾花沢に帰郷した矢作さんは、父・清次郎さんと二人三脚で家業に専念。当初は、習得した技法と父の技法の違いに戸惑いを覚えて反発したこともあった。しかし、畳職人としての経験を重ねていく中で改めて痛感したのは父の偉大さだ。
長年の経験から成せる技の凄みもさることながら、次々と新商品を生み出す発想の豊かさに多くを学んだという。例えば、発光する畳縁で空間演出と動線誘導を可能にした「LED畳」。特許を取得したこの商品を筆頭に、伝統的な和柄模様の畳縁を用いた独創的なバッグ小物など、枚挙にいとまがない。


郷土愛を具現化したオリジナル畳縁や
アート性の高い新作畳を次々と創出


当然、そのDNAは父から子へと着実に受け継がれている。最近では、コロナ禍で自粛要請が続く中、少しでも地域の盛り上げに貢献しようと、尾花沢が発祥の伝統芸能である花笠踊りから着想を得た「花笠縁」を開発。とりわけ花笠縁を用いたミニ畳は、マウスパッドや飾り台など日常使いにぴったりとのことで愛用者が急増中だとか。
そして、畳を庭の池に見立て錦鯉を泳がせた「刺繍畳」は、矢作さんにとって会心の作。錦鯉の刺繍を施した畳表は、張り具合を慎重に調整しながら手縫いで仕上げなければ絵柄が歪んでしまう。
「難しい仕事ほど、得るものが多い」と静かに語る横顔は、職人の気概に満ちていた。


畳文化や伝統技法を次代へとつなぎ
後世に伝え続ける、その礎として


2006年、25歳で国家資格の畳製作技能士1級を取得。これを契機に、技能グランプリに3度出場し、いずれも上位入賞を果たしている。2016年には、い草生産の本場である熊本県八千代市で開催された畳表製織研修に参加。実際にい草農家に宿泊して刈り取りから織り上がりまでの工程を経験することで、畳表への理解と愛着がより深みを増したという。
そして現在は、ものづくりマイスターとして活動の幅を広げる矢作さん。
今後は、畳製作技能士1級を目指す若手職人への技能継承に力を注ぐと同時に、東北では数少ない京都の文化財畳保存会メンバーとして、畳文化を次代につなぐ中心的役割を担っていきたいと目を輝かせる。

無我夢中で技を究めこだわり抜く愚直なまでの一本気な姿勢は、これからも大きな実を結び続けていくことだろう。