
建具
師匠の教えを大切にした丁寧な仕事。
長年のキャリアで身につけた技術を活かし、
新たな製品の開発や後進の育成に。
※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。
物を作るのが好きだった子供時代
聞こえてきた親の想いに応えて建具工に
渋谷さんの父が創業した『渋谷建具店』。子供の頃から身近に木材があったので、それらを使って工作をして遊んでいた。
ある日、作業場から「幸隆が家業を継いでくれたらなぁ」という両親の会話が聞こえてきた。そのときまでは跡を継ぐ気はなかったが、もともと物を作ることは好きだったので、両親の期待に応えるように、家業を継ぐことを決めた。
師匠からの教えを大切に
丁寧な仕事でお客様によろこびを
17歳で河北町の『柏倉建具店』に弟子入り。師匠の指導は「仕事は見て覚えろ、して覚えろ」という、昔の職人の指導法として、よく聞くものだった。また、「仕事は丁寧にしなさい。これでいいかなと思ったら、そこよりもう少し丁寧に」という教えをいただき、そのことを今も大事に仕事をしているそうだ。
師匠からは怒られたことが無かったそうで、「いい師匠につくことができた」と笑顔で語ってくれた。
21歳のときに『渋谷建具店』で、父と二人で仕事を始めた渋谷さん。父が亡くなってからは一人で仕事に向き合い、キャリアは45年。
今でも、お客様によろこんでもらえる丁寧な仕事を心がけている。
住宅の変化による建具需要の減少
木工技術を応用した製品の開発、提供
近年の住宅建築はハウスメーカーが主体となり、既製品の部材が使用されることから、建具の需要は減少しているという。建具に関しては、既存の住宅の作り替えなどが多くなってきている。
現在、副会長を務めている『月山やまぢから研究会』へ入会してからは、地元の「西山杉」を活用した製品開発に注力。西川町の「ふるさと納税返礼品」の木工製品開発や村山総合支庁、やまがた森林と緑の推進機構等からの依頼で木育教育にもなる積み木を製作。他にも、山形県からの依頼で「西山杉」を使用したアクリルパーテションの製作、額縁やネームホルダー、家具、書類箱の製作など、本業の建具以外にも長年培ってきた木工の技術を応用した仕事を行ってきた。
修行時代に仏具などの彫刻技術も学んでいたこともあり、細かな細工の製品の開発や提供も行っている。
人に教えることで
長年携わった建具工という仕事を次世代に
製作するという仕事の他に、西川町の依頼で小中学校に木工教室の講師として赴き、その技術の一端を教えたり、製品開発も含めて地域の伝統技能の保存と地域振興に貢献している。
「75歳までは木工に関わる活動をして、人に教えることができればいいかな」とこれからの活動について話す渋谷さんだが、技術の提供の場、需要が減少し、西川町でも渋谷さんひとりとなってしまった建具工のこれからについては不安を隠せない。
「在来工法の住宅需要が戻ってきてくれればと思うが、それは難しいと思う。そんな中だけど、この仕事に就いてくれる人が出てきてくれるといいな」と話し、もしその人に自分の技術を継承できれば、自分の工房をあげてもいいと、次世代の建具工に思いを馳せていた。