更新日:2021年1月18日

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山形ものがたり YAMAGATA'S STORY

山形ものがたり YAMAGATA'S STORY

いいれきし山形の歴史文化編

山寺と紅花

Yamadera and Safflower

芭蕉の目指した、山上の名刹。母なる川に支えられ、富と文化をもたらした特別な花。
人々を魅了してきた、2つの物語が重なり合う。

山寺

東北の名刹、山寺立石寺。都の暮らしを彩った紅の花。2つの歴史とその背景に思いを馳せるとき、商人が築き、伝え残した街の風情や雅な文化の名残、時代を超えた山形の魅力が浮かび上がってきます。

山寺こと天台宗宝珠山立石寺は、雄大な自然の岩山に広がる寺領。重要文化財に指定されている根本中堂をはじめ、蜂の巣のように穴のあいた巨岩、怪石、仁王門、奥の院、開山堂など見どころも多く、古くから多くの参拝者が訪れてきました。
山門から1,015段の石段の先には、崖から突き出すように建てられた五大堂が佇み、眼下に広がる絶景のパノラマは、登り切った人にしか味わえない感動があります。

江戸時代の俳聖・松尾芭蕉は、「おくのほそ道」の道中でこの山寺を詣で、その道すがら「眉掃(まゆはき)を俤(おもかげ)にして紅粉(べに)の花」の名句を残しました。当時、質、量ともに優れた山形産「最上紅花」は、都で高級品として取引され、金と同等もしくはそれ以上と言われるほどでした。
農民が納める年貢は、運ぶ途中で傷んでしまうリスクのある米よりも、心配がない現金が重宝されたと言います。紅花はその絶好の資金源としても、盛んに栽培されたと考えられます。希代の俳人が目にしたのも、辺り一面に広がる紅花畑の風景だったでしょう。


紅花畑(山形市高瀬地区)

 

最上紅花の隆盛には、母なる川最上川が大きな役割を果たしました。栽培の肥料には川の堆積物が利用され、摘み取りでは、紅花の鋭い棘を川からの朝霧が濡らし柔らかくしてくれました。また、産地から日本海側の酒田港への輸送を支えたのも、最上川の舟運でした。

商人たちは、さらに海運によって、貴重で高値の紅花を上方や江戸に運び、大きな富を築きます。その中心を担ったのは、近江国(現在の滋賀県)出身の近江商人です。
現在の山形市十日町から七日町周辺は、近江商人が拠点とした町で、今も古い商家とともに蔵が建ち並びます。紅花商いの帰り船で、都からさまざまな文化がもたらされました。県内各地に残る貴重な古雛人形は、上方から運ばれた代表的なものの一つです。
山形の郷土料理「おみづけ」も、「おうみづけ」の名のとおり、近江商人が考案したと言われます。農民が堰に流した野菜くずを「もったいない」と拾い集め、切り刻んで漬け込んだのだとか。
また、上方から伝えられた「ほんに(本当に)」「うるかす(浸す)」「しなこい(柔軟な)」といった言葉が今も使われているなど、彼らが活躍した当時の面影を各所に残しています。


古今雛(河北町紅花資料館所蔵)

 

ところで、江戸時代、山形の発展を牽引し、経済の基盤を築いた近江商人と、深い関わりがあったとされるのが、山寺です。
同じ天台宗の総本山、比叡山延暦寺は近江国にあり、山寺の開祖、慈覚大師円仁も延暦寺で修行しました。近江商人は、きっと遠く離れた故郷を山寺に重ねたことでしょう。事実、寄進によって手厚く支えたと言います。

紅花栽培は、化学染料の普及などに伴い、明治時代以降に一度衰退します。戦後になって農家から古い種が見つかり、復興を果たしますが、その場所が、山寺の門前町からほど近い山形市高瀬地区だったことは、偶然ではないように思えます。
一説には、紅花が日本に渡来して最初に栽培が盛んになったのは、比叡山があり、近江商人を生んだ近畿地方だったとか。山形への紅花栽培の普及には諸説ありますが、もしかしたら慈覚大師が立石寺創建の際に種を…そんな想像も広がっていきます。

2018年、近江商人が結ぶ山寺と紅花にまつわるストーリーは、日本遺産として認定されました。山形市や河北町、白鷹町、天童市などを中心に、可憐に咲き誇る紅花。開花時期は暑さが日に日に増してくる初夏、ちょうど芭蕉が山寺を訪ねた季節です。

~このストーリーは平成30年度に文化庁「日本遺産」に認定されています~

<取材協力>
河北町文化財保護審議会


紅花

 

ひとくちメモ

最上紅花、隆盛と盛者必衰のドラマ

河北町の「紅花資料館」は、紅花富豪だった堀米四郎兵衛の屋敷跡で、北前船と最上川舟運によって隆盛を極めた当時の交易の様子や、上方からもたらされ当地に深く根付いていった文化が文献や展示物という形で多数保存されています。また併設する物産館では、紅花染めのグッズ販売や、予約制による紅染体験なども。

お問い合わせ
河北町紅花資料館
〒999-3511 山形県西村山郡河北町谷地戊1143 電話番号:0237-73-3500

参考サイト

山形ものがたり

  • いいもの山形の産業編

  • いいれきし山形の歴史文化編

  • いいながめ山形の自然編

  • いいじかん山形の祭り編