伊藤政次

大工

伊藤政次の仕事。
有限会社 伊藤建築店 代表取締役(山形市)

古民家をばらした古材と新材を融合させて移築したセカンドハウス。
何百年もそこにあったように山里の景色に溶け込む何気ない佇まい。
しかし実は、類い稀な技術と経験が見事に結実している。
「見える部分に金物は一切使っていないんだ」
大工としての誇りが、日焼けした笑顔から感じられる。

伊藤政次 取材に訪れたのは、完成してまもないS邸の土間に設置する、囲炉裏をこれから納めようという時だった。古来からの釿(ちょうな)で表面の一部を加工した炉縁は、ほぞ接ぎと千切り留めだけで組み上げられる。微調整は鉋(かんな)一削り、0.1mmにも満たない精密作業である。
「建物も、施主の方のこだわりで、見える場所には金物を全く使っていないんだ」と伊藤さん。
唯一見えるのは、鍛冶屋が打った頭部分が四角い和釘のみ。移築するための民家を解体する際はすべての木材に番付をし、曲がった梁まで元通りに組み直す。県内外の文化財の修復・復元を数多く手がける伊藤さんならではの技だ。土壁は施主が自ら手がけた。
「姿図(立面図)と間取りが決まれば、図面なんかなくても家は建てられる」。
大工にとって何より大切なものは、一生に一度の大事業である家づくりを任せてもらえる施主からの信頼だと伊藤さんは話す。施主が望んでいることをいかに汲み取り、どうそれに近づけるか。そのための想像力と創造力だと言う。
「同じように製材された角材でも、木は一つひとつ違う」。
伊藤さんの言葉はこう続く。木を見ればどこの山から切り出されたものか、たいていは分かる。西山の杉は乾燥していて芯が赤いが、東の山のものは湿気が多いから黒い。いい木は乾燥した場所で育ち、目が細かく硬い。木には上下があり、内外がある。それを分からなければ大工とは言えない─。
山里に佇む民家は、2代目の施主を得て生まれ変わった。環境と暮らしと住まい。その間を繋ぐ大工の仕事。それは山形の地域性や美しい森の風景を次の世代に繋ぐ仕事でもある。