原田直之

大工

原田直之の仕事。
株式会社丸健 大工棟梁・宮大工(山形市)

何百年後の人に見られても
恥ずかしくない建築物を建てたい
時を経た寺社の再建に取り組む宮大工・原田直之さん。
反り屋根の優美さ、随所に施された彫刻の繊細さ。
そこに込められた宮大工職人としての真髄は、
「ものづくりが好き」だからこそ積み重ねられた
技の粋といえる。


※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。

原田直之 好きだからこそ続けられた

少年の頃からものづくり大好きだった原田さん。大工になるのが夢で、高校卒業と同時に宮大工集団・株式会社丸健に入社した。驚かされるのは、この時、大工仕事はまったくの未経験。しかも「丸健が神寺を手がける会社とは知りませんでした」という。
この世界は先輩が手取り足取り教えてくれるわけではない。先輩職人の一挙手一動を見ながら体で覚えていくのが「常識」。待っていたのは「記憶にないくらい辛い毎日でした」。
しかし、ものづくりが大好きだっただけに、辛さよりも削る楽しさ、組む面白さが勝り、腕は上達していった。まさに「好きこそものの上手なれ」である。

いかに美しい曲線を無駄なく創るか

「好きなのは墨付けと造作ですね」。思い描いた通りに墨付けをして、切り刻み、組み立てていく。出来上がった時の達成感がこたえられないという。造作は自分の腕前を存分に発揮し、人に見てもらうのがたまらないという。根っからの宮大工である。

寺社建築の特徴である「反り屋根」、これぞ宮大工・原田さんの真骨頂が発揮できる場面だ。原寸図を描き、1枚の板から必要な部位を切り取る。木を無駄にせずに、いかに美しい曲線を創りだす部位が取れるかが勝負。また、木の性質を読み、反り、狂う方向を見きわめて取らなければならない。一つ間違えると、長い年月の間に天井が下がり、屋根も歪む。伝統建築においては致命的だ。

ミスをしないための努力が不可欠

15種類のノミ、6種類のカンナ、4種類のノコギリ。道具はトラック一台分ある。それらを駆使して、ミリ単位で木を切り、削り、組み立ていく。ある時、木をほんの数ミリ間違えて切った。高価な木を1本無駄にした。それだけではない。寺社建築には通常完成までのべ600人以上の職人がかかわる。それらの手が止まり、日程がズレることで多くの職人に迷惑をかけた。
小さなミスが大きな失敗に。それだけに不断の努力を怠らない。古い寺社を壊す時には、ただ壊すのではなく、先人がどのように木を削り、組み立てたかを見る。初めての工法に出会い、当時の知恵や工夫に学ぶことが多いという。近くの寺社に出かけては組み方や意匠を知る。「そうやって勉強させてもらい、技を磨いています」と原田さんは笑う。

先進の技術も求められる宮大工

いま原田さんは棟梁として神社の再建を任せられている。神寺建築は実にさまざまな分野に特化した専門職が入り乱れて工事が進められる。棟梁はこれら現場に入るすべての工事を統括しなければいけない。だから「これから、もっといろんな知識を深めていきたい。いろんな分野で仕事をしていけるようにしていきたい」と話す。引き出しを多くしておけばどんな建物に出会っても良い建物が建てられる、と考えている。
近年は、寺社にも耐震基準が求められるように先進技術の習得も必要だ。古さと新しさの融合。それが宮大工に課せられている。「いつの時代も最良の建物を建てる技術を身に付けたい」。そして、「何百年後の人に見られても恥ずかしくない寺社を造りたい」と話す原田さんの勉強の日々は続く。