日野ゆず

大工

日野ゆずの仕事。
山形県立山形工業高等学校 教員(山形市)

ものづくりを楽しむ祖父を見て、自ずと芽生えた大工になるという夢。
業界ではまだ女性は少数派だが、ただ一点を目指して歩んだ。
日野ゆずさんは、現在教員として建築の魅力を伝えながら、
技能五輪全国大会での入賞に向け、日々研鑽に努めている。


※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。

日野ゆず 身近にあった“好き”を仕事に
幼少期から抱いていた夢の実現へ


「大工を目指したきっかけはじいちゃんでした」。趣味で日曜大工をしていたおじいさんの手で、小屋や椅子などが次々と出来上がる様子を見ていた日野ゆずさん。余った材料をもらっては、家具やダンボールのおもちゃなどを作って遊んでいた。幼い頃から身近にあった、ものづくりの道への入り口。“好きなことを仕事にしたい”と、大工になるという志を持って、山形工業高の建築科に進学。男子が大多数を占める教室でも臆することなく、ただひたむきに勉学に励んだ。高校卒業後は、専門的な知識や技術を身につけるために、山形職業能力開発専門校の建設技術科へ。「ちょっとでも勉強になればと、ペア学習の時は自分よりも上手な人と組んでいました」。自身の負けず嫌いな性格が功を奏し、資格取得や検定にも積極的に取り組んだ。


ものづくりを教える側に
教職という新しい選択肢


専門校を卒業してすぐに、民間の建設会社に就職。日雇いでも現場仕事がしたいと、一人親方のもとで働いていた最中、山形工業高から講師の誘いを受ける。「自分の中にない選択肢をいただいて、挑戦してみたいと思いました」。2018年4月からは、母校の山形工業高で実習教諭を担当することに。“教えられる立場”から“教える立場”になってすぐは、ものの伝え方に頭を悩ませたが、一人一人の性格に合わせて言い方を考えたり、言い回しを変えてみたりと、試行錯誤しながら今日も指導に当たっている。そんな努力は見える形で現れており、日野さんが着任してから木材加工に興味を持つ生徒が増えたそうだ。阿部稔校長は、「ものづくりの楽しさを伝え、生徒の『やってみたい』という意欲をかき立ててもらえれば」と、彼女の活躍に期待している。


飽くなき探求心をもって
追求し続ける職人の技


現在日野さんは、第58回技能五輪全国大会に向けて昼夜練習に勤しんでいる。本部から出題される図面をもとに、展開図の作成から施工までを一貫して行い、精度とスピードを競うこの大会。2018年の第56回で初出場を果たし、2019年の第57回では本番で満足のいく加工ができず、大会直後は飲み食いができないほど落ち込んだ。しかし、表彰式では予想だにしなかった銅賞を受賞。メダルを首にかけてもらった時初めて“努力が報われた”と実感が沸いたという。3年目の2020年、本番を前に「自信を持って賞をもらえるような作品を作りたい」と意気込んでいる。
日野さんは、生徒たちにも大会出場を勧めている。「技能士の資格取得にもつながるし、制限時間の中で決まった課題を作るので応用力が身につきます。そして何より自分のやる気が上がるので」。技術を磨くことで広がる活躍のフィールド。それを体現する日野さんの後ろ姿が、未来の大工職人を育んでいる。

※2020年10月取材時。第58回技能五輪全国大会(2020年11月開催)出場結果、敢闘賞受賞。