細矢道明

石工

細矢道明の仕事。
細矢石材店 二代目(東根市)

石垣や池、灯篭や玄関。
住まう場所の周辺から、建造物、お墓まで。
私たちの身近な場所で、長く美しく受け継がれる「石工品」。
そこには受け継がれた技術に留まらない、
石工の人々への想いがあった。


※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。

細矢道明 先代に託された石工という仕事。
お客様への思いからなる厳しさ


墓石を中心とし、玄関や塀の整備など石に関わる業務を広く行っている細矢石材店。先代は様々な石工の元で修行をし独立、起業した。2代目を受け継ぐ細矢道明さんは会社員として働いていたが、先代、お父様のケガをきっかけに後を継ぐことを決意。しかし暗くなるまで現場で働き、作業場に戻って図面を引いたり、石の加工を夜中まで行うという過酷な労働時間。冬になるまでほとんど休みがなく「まだ20代だった頃は、自分がこんな仕事を続けられるわけがないと思ったこともありました。」と振り返る。

とにかく頼まれた仕事は、何でも引き受けたという先代。石蔵の建設や、河川の護岸の石積みから特殊なものまで、細矢さんは先代の背中を見ながら、たくさんの経験を重ねてきた。「昔ながらの人で、口数が少ない。それでいて少しのズレや、甘さを見つけると『交換』『やり直し』と指摘してくる。若い頃の自分は反発しかありませんでした。」

ある日、お寺の鐘付堂の土台復元という仕事を依頼される。崩れた石積みを積みなおす作業は技術だけではなく手間がかかり、ことごとく断られた仕事を先代は二つ返事で預かってきた。さらに現場は細矢さんと一緒に作業をしている母親に託し、先代は別の現場へ。石一つひとつに番号をふりながら隙間なく築いていく果てしない作業。0から造る仕事よりはるかに難しさを感じ、愚痴をこぼしながらも懸命にやり遂げた。

「お寺さんもどこもやってくれなかった仕事を若造一人でやっているもんだから、始めは不安だったみたいです。最後は「疑って悪かった」と謝られました。」

現在奥様と一緒に細矢石材店を営んでおり、昨年から息子さんが3代目として仕事を手伝い始めている。「長年経験を重ねるうちに、先代のすごさを感じるんです。地域の力になりたい、頼まれた仕事を確実に届けたい、そんな気持ち。そして彫りや構造物の美しさ、強度という技術力の高さ。何より若かった自分に対し、難題とも思われる業務を任せて経験を積ませ、自信を育てるという寛大さ。そんな教育が私にできるか、考えてしまいます。」と細矢さんは笑った。


いつまでも愛おしい、
手掛けた造形の数々


「どんな仕事でも同じでしょうが、大事なのは免許や修行先など肩書へのこだわりではなく、お客様や仕事に対する気持ちなんだと思うのです。」わりではなく、お客様や仕事に対する気持ちなんだと思うのです。」これまで細矢さんは作業に必要な免許は取得したものの、外へ修業には出ず、先代の元で様々なお客様と接し、経験を重ね技術を磨いてきた。

石の魅力は高級感や美しさ、強度などあるが、細矢さんが石工として努めるのには「お客様がいろんな素材の中から「石」を選んだ、その気持ちに寄り添って100%の技術で完成させたい。」という思いがあるそう。以前温泉旅館のお風呂場を依頼されたことがあり、そこを利用したお客様がその旅館と大工さんを通じ、一般家庭のお風呂場も造ってほしいと細矢石材店に依頼してきた。

「石は何十年経っても腐れません。手入れさえしていれば、ずっとそのまま。家族みんなが笑顔で入る様子を想像しました。完成後喜んでいただき、本当に嬉しく、やりがいを実感。私が石工を選んだ理由、それはお客様に喜んでもらえること、それに尽きるのだといつも感じています。」

近年、地域の石店の在り方が大きく変わってきているという。先代の頃には手書きで行っていた設計は、3D CADで行い、お客様にはカラーの立 体感ある図面で提案ができるようになった。

しかし墓石に関しては海外から原石を輸入しにくくなり、すでにデザインされたものを注文する方が安く、石の加工どころか、設計すらせず、施工のみの業者も増えているとか。「やっぱり私はお客様の希望に沿った仕事がしたい。だから打ち合わせでしっかり聴き込み、要望に合わせデザイン。技術の100%を注ぎ施工したいと思うのです。」

細矢さんはお墓の新設や、メンテナンスなどを依頼された際、現場で以前に細矢石材店が請け負ったお墓を見つけると、頼まれてもいないのに掃除やちょっとしたメンテナンスもするそう。「手掛け、お客様の元で受け継がれているその姿が愛おしくて。手を合わせてくるんですよ。」


後世に残る石工の技。
地域に残したい、細矢石材店の心


造る以外に、毎年増え続ける墓終いの仕事。建てた業者に関わらず依頼がくるが、両親が建てたお墓は何十年経った今でも頑丈で、解体が難しいそう。「技術力の高さと心意気を感じますね。」変化の時代を歩む、石材業界。

細矢さんは、息子にあとを継がせるか悩んだ。それでもお客様に依頼される仕事が奥様と2人では請負きれず、決断するに至った。「地域の小さな石屋さんがどんどん閉じ始めている。お墓を建てる人がいなくなってきたのも理由の一つでしょう。でもなくなったら困る仕事。技術面の継承はまだまだできていないけれども、いつか先代が自分にしたように、現場を任せられるようにしたい。

でもこの仕事を嫌いになってほしくないので、指導方法は考えたい。」受ける仕事の種類ややり方も、先代の頃とは大きく異なり、これからも変化するであろうこの業界。それでも細矢さんは自らが身につけた技術とセンスをもって地域やお客様の力になりたいと、先代と同じように向き合っていた。

「何かちょっとあったとき、じゃあ細矢さんに頼むべって言われるような仕事を、これからもずっと心掛けていきたいですね。」