造園
日本人の自然観が表れる日本庭園は、
古くより受け継がれた独特の意匠によって築かれ、
人々の「拠りどころ」として発達してきた。
武田和博さんは、和の伝統を重んじつつも遊び心のある
デザインで癒やしの空間を創造し続ける。
※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。
斬新なアイデアで築く
日本人の心の拠りどころ
四季の移ろい、日本人の自然観そのままを映し出す日本庭園。その美しさは時代の思想や風潮などと融合しながらも、自然への敬意や調和を表現するという文化は今日まで変わらない。ときに貴族の宴の場として、また武士の儀礼の場として人々の暮らしに溶け込んだ庭の存在は、日本人にとっていつの時代も特別だ。
「従来の技法にとらわれない、遊び心のあるデザイン」を追求する武田園芸は、代表の武田和博さんをはじめ、庭師には多くの芸大出身者が在職。色感、立体感、統一感を兼ね備え、伝統技術を生かした、公共空間のガーデニングの修景や個人宅のガーデニングの施工に定評がある。
子や孫まで受け継がれる庭へ
美庭維持の仕掛けづくり
顧客の中に造園について詳しい人は数少ないが、首を縦に振ってもらわないことには受注は難しい。「生活に支障をきたさないか、5年10年先に植栽がどう成長するかといったことなどをプロの目線で伝えることを大切に。庭師の“師”の意味を考えるようにと若手には話しています」。武田さんは庭に長く親しみを持ってもらえるよう、顧客へのアフターフォローに力を入れている。これまでに、工事の経過写真をまとめたアルバムや、植栽の名前を記したプレート、生育マニュアルなどを手作りしてきたが、これらは現場の庭師から生み出されたアイデア。「何でもまずはみんなで意見を出し合います。お客様の『やっぱり武田さんに頼んでよかった』という声がやりがいにつながっていますね」。
眺めて、時を過ごして
空間を愉しむ“庭演”に
「『庭とはこういうものだ』という考えを払拭した他にない庭。オンリーワンの庭はやはり喜んでいただけます」。武田さんは、さらなるアイデアを求めて各地の新築建造物の視察や、全国の造園組合員との交流を行っている。また、技術力を試すため数々のコンクールにも出場し、全国一級造園施工管理技士の会(以下、一造会)の2019年「第14回一造会大賞」では、東根市資料館「東の杜」のリノベーションが最優秀賞を受賞。設計施工を少人数で一体的に進めたことや、若手への伝統技法の継承に取り組んだことが評価された。
近年の建築様式の変化に伴って、室内外から眺めても、足を踏み入れても楽しめる庭の需要が高まってきたと武田さん。「人は庭に癒やしを求めているのだと思います。皆様の庭空間に愉しみを加えることが私たちの仕事です」。雪が解け、また芽吹きの季節がやってくる。武田さんのパース図に、次はどんな庭の姿が描かれるのだろうか。