林忠三郎

造園

林忠三郎の仕事。
林造園(大江町)

求められる場所で、木々や石、自然をとりまく環境や広さ、想い、
一つとして同じことのない造園の仕事。
林忠三郎さんは、技術を磨き、経験を積み重ねながら、
いつの日も変わらず真っ直ぐな気持ちで、
お客様のお庭や地域と向き合い、要望に応えていた。


※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。

林忠三郎 職人の技術や思考に魅せられて。
人々を癒す庭造り


手伝ってほしいと声をかけられ、中学校を卒業してすぐ造園工見習いとして、大江町内にある荒木園に勤めたという林忠三郎さん。もともと実家はリンゴやラ・フランスといった果樹栽培や、稲作などを行う農家。しかし造園の仕事をすればするほど夢中になり、15年ほど勤めたのち独立、林造園を設立した。

「師匠はもちろん、いろんな方に指導いただきました。川に流れる水は、夜と昼、天気や気候によってその量が異なり、音にも変化が。石の組み方によっても変わります。そんな職人の思いに聴き入りながら、生み出されるお庭にいつもわくわくしていました。仕事を終えたらご飯を一緒に食べて、そのあとに勉強会。朝早く起きて親方のハサミを研いで。一人前に研げるようになったら、一つ仕事を任されて。修行中は寝る間も惜しんで学んでいましたけれど、楽しかったですね。」

独立し約50年。林さんはこれまで京都など県外の造園の本場へ修業には行ったことがなく、技術が足りないのではと不安になることもあったとか。しかし築き上げた熟練の技と経験、その人柄に惹かれ、日々たくさんの依頼に応えるほか、長きに渡り寒河江西村山造園組合の会長も務め、地域の職人の技術向上を目的に講習などを企画・開催してきた。「真面目に、正直に、コツコツと。お客様や仕事と向き合ってきたからこそ、今の林造園があると思います。」

現在林造園では、一般住宅の庭造りから、町内外のお庭や公共施設の植木などの剪定や消毒、雪囲いなど維持管理を手掛けている。所有する山には木々や岩石を宿し、お客様の要望に沿って販売、庭造りに活かしている。林さんが得意とするのは、松や紅葉などの管理。お庭によっては、電柱より高い松もあり、命がけでハサミを入れたこともあったそう。

「庭は人々の心の癒し。自然の営みを表現しつつも、床の間に旦那様が座って庭を眺めた際に、木々が前にお辞儀をするような形にするため、切ったり、重石をしたり、仕立てていきます。お客様によっては、今ある木で庭造りをしてほしいと言われることもありますし、石積みや池、滝があったり、コンセプトも広さも異なるので、木々の成長とそれぞれの環境に合った技法で庭造りや整備を行っています。」


庭に対する時代の変化。
変わらぬ本質への思い


「家に帰って腰を下ろし庭を眺めれば、水の音がしたり、花の香りが漂ったり、木々が鮮やかに色付いていたり。大きくても小さくても、四季折々に豊かな姿を魅せてくれるお庭は、気持ちを安らかにしてくれます。」林さんが修行していた頃、家を新しく建てるなら、床の間から見える1番良い場所に自然を愛でるお庭を整備する、というブームが始まったそう。来客は床の間に案内し、風景と共にもてなす。庭造りに立派な石を置きたいと、北海道など遠くから取り寄せ電車を使って運んできたこともあった。

ところが時代は移り変わり、今では代替わりの末、お庭を始末してほしいという依頼を受けることも増えてきた。山に宿した樹木の中には、立派な木をどこかで生かしてほしいと託されたものもあるそう。「寒河江西村山造園組合の会員は、設立当時50人くらいいましたが、現在は20人ほど。これにはお庭に対する価値観の変化に加え、後継者不足の問題があります。山形の冬は雪に覆われ、半年間仕事ができない。そんな苦労から後を継がせたくないと思ってしまいますよね。」

林造園では、2人の息子さんと、お孫さんが修行をしながら林さんの後を継いでいる。「継いでほしいと言ったことはないのだけれど、子どもの頃からハサミを腰に下げて仕事についてきたり、興味があったんですね。次男は造園の大学に進学しました。2人とも技術力を高めお客様の要望に応えたいと、日々勉強しながら造園や土木、運搬や管理に関わる様々な資格や免許を取得したり、講習会に通ったり。もちろんこの仕事は経験も重要。こう言われたからその通りに切るわけではなく、同じものもなく、1回教えたからできるようになるものでもなく、毎回指導。時には意見が合わず喧嘩になってしまうこともあります。厳しく意見が言い合えるのも親子ならではの良さかもしれません。」

近年はお庭の仕事のみならず、公共機関の樹木の消毒や剪定・雪囲いなどといった管理も軸に行ったり、懸念される冬、息子たちは除雪車に乗って高速道路の除雪といった雪国ならではの仕事も行い、家業を支えている。


息子たちに託す未来。
職人として庭と向き合い続けられる喜び


林造園の近所にある、自身が手がけたご親戚のお庭を見せていただいた。自宅を新築するにあたり、元の家にあった樹齢100年ほどのサツキの木を移植し、新たな庭を造ったと言う。池や滝が設けられ、木には施主が手作りした巣箱が。「毎日お庭を眺めるのが楽しみなんですよ。この巣箱には、毎年ヤマガラがやってきて、子育てをし、巣立っていきます。」と教えてくれた。庭は造って終わりではなく、季節が移り変わり、植物が成長し、少しずつ変化をしていく。

「職人は木の特徴を知り、変化や成長も見据えて庭造りをします。造った川の上に紅葉の枝が流れるように伸びる、とか。しかし成長のために空けておいたスペースに新たな植物を植えられたり、職人の思いと異なる剪定をされたり。管理は大変かもしれませんが、時々でいいから職人に相談してみると、その魅力が続きますよ。」

林さんは現在75歳。自身の山に宿した木々や石の様子を見に行き、キノコ栽培や山菜取りも楽しみながら、日々変わらず造園業の仕事をこなすのが日課となっている。「ここまで一代でお客様の信頼を得て、公共事業までできるようになったのは私の誇りです。そしてこの年で仕事をさせてもらえるのも、息子たちが一緒だからこそ。若い衆には、もっと勉強して技術を磨き、お客様に尽くせるよう、これからも頑張ってほしいです。」